にわかラップファンが見る 『STRAIGHT OUTTA COMPTON』
ネット放送「Abematv」の「フリースタイルダンジョン」を始め、昨今はパンピーにまで浸透し始めている
ラップブーム!
ミーハーの俺は、さっそくそのルーツを探るべく、ギャングスタラップの黎明期を作り出したカリフォルニア州コンプトン発の活かしたこいつら
『N.W.A』
に焦点を当てた映画
『STRAIGHT OUTTA COMPTON』 2016
を鑑賞してみた。
ラップはそもそも、征服民族であるマジョリティの白人が敷いた政治体制に弾圧され続けた黒人が、その抑圧された感情を吐き出した
マイノリティの叫び
がルーツである。
そしてその叫びを文化までにのし上げた、ギャングスタラップのパイオニアが『N.W.A」というグループ。
メンバーである
ICE CUBE MC REN EAZY E YELLA DR.DRE
の5人、にわかでもDR.DREの名前は聞いたことがあるし、
作中に出てくる良く聞く名前のラッパー
SNOOPDOGや2-PAC、
更には最後のインタビューシーンで、「このグループが居なければ今の自分はいない」とまで言った、あまりにも有名な
など、その後のラップ文化に与えた影響は計り知れない。
そんな偉大なグループが世界を沸かせるまでのストーリーを追った本作。
彼らの楽曲をBGMに描かれるその物語が、面白くないわけがない!
映画を見た後に彼らのベストアルバムを購入して聞き込み、
Fu○k The Police!
と叫びながら街に繰り出してみよう..
..数分後にはきっと、通報を受けて駆け付けたお巡りさんの職務質問にあっていることだろう。Good Luck!
..とまではいかないまでも、この表層的な平和にどっぷりつかり、体制に抗うという精神を忘れた 去勢された犬 のような僕でも、
大切なものを見失わないように、彼らが世界を変えた
反骨精神
というものは、いつまでも忘れずに持ち合わせていたい。
桜庭一樹 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
実社会にコミットするため、生活に即した「実弾」を打ち続ける主人公の女の子。
そんな主人公がある日出会った海野藻屑(うみのもくず)という女の子は、実弾が手元に無く、空想でできた砂糖菓子の弾丸をひたすらに打ち続ける。
その弾はしかし、社会の歪な壁を打ち崩すだけの力を得ず、跳弾したお菓子の弾は、崩れて溶け堕ち、泡となって消える。
読了後の余韻は痛切でいて、鉛色の海に、青空の青が少しだけ溶けだしたような不思議な感覚。
本物だなぁと思った漫画 『THE WORLD IS MINE』 新井英樹
漫画にもいろんなジャンルがあるが、
社会とか人間の本質を描いた、魂に響く漫画
というものがある。
俺の中ではこれ、
『THE WORLD IS MINE』 新井英樹
エンターブレイン 2006
辞典ほどの分厚さで、全5巻という大ボリューム
何年も前に一度読んで衝撃を受け、記憶が薄れてしまったので再読してみた。
まず1巻
この漫画、各界の著名人も絶賛しており、各巻の帯にはコメントが付されている。
1巻の帯の内容
「残酷さに震えてしまう。90年代に生まれた、素晴らしい文学の一つだと思
います。」
「ワールド・イズ・マインを知らない子供達へ。世界の残酷さの裏側を覗いて
みろ。「世界」という文字が透けてみえるような、素敵な場所がある。」
...岸田繁のコメントがすてき...
1巻を読み終え、1巻でここまでストーリーが進んだっけというくらい、怒涛の展開。
以下、ごく簡単なあらすじ。
ー世界に愛された、法やモラルを超越している超自然人の主人公「モンちゃん」
と
ネットで他者と繋がろうとし、爆弾の作り方を検索しちゃうような、今の時代にはどこにでもいそうな、だけど、ちょっとヤバめなオタクの「トシ」
この2人が出会うことで、表層的な平和を生きる社会に「テロリズム」がもたらされる。
さらに、隕石の落下の影響で北海道の南端に「ヒグマドン」なるヒグマの怪獣が現れ、ゴジラさながら海を渡って本州に上陸し、ひたすら暴れまわる。
この、モンちゃんとヒグマドンという最凶の「天災」と、爆弾魔となる「トシ」を生み出した社会の「人災」が、最悪な科学反応を起こし、平和な日常というやつをぶち壊していくー
突き詰めるようなリアルとカオスな破壊劇の混在
この物語はテロ実行犯の2人の視点を中心に語られるが、著者の取材による情報量が豊富で、警察組織、政治家、テロに巻き込まれるそれぞれの人間達が、それぞれの正義をもとに動く状況が
多面的に、本質を突くように、それでいて冷静な視点に立って
描かれる。
それがこの漫画をただの娯楽作品ではない、読者に思考を喚起させる「文学」に押し上げている。
序盤から早くも
殺して、犯して、爆破して、と無差別な犯罪が繰り広げられる
漫画だが、著者が巻頭インタビューでこの作品を「道徳の教科書」のつもりで描いたと言うように
社会の作り出した悪を徹底的に描くことで、人間の本質を浮き彫りにする
反面教材的な側面が強い
深いテーマ性を帯びた娯楽作品
となっているように感じる。
トシの、「命の値段」とか「世界平和」とかいう青臭い問題提起に対し
「命にはハナから価値は無く、世界平和というユートピアなど存在し得ない」
とザクリと記者会見で言っちゃうような、ユニークな総理大臣「由利勘平」など、この漫画はキャラが立っていて、飽きることがない。
これから物語がどう進んでいくか、薄れた記憶を辿りながら、ゆっくり咀嚼して読んでいこう。
吉田修一 『怒り』
パレードからの..
吉田修一『怒り』
消化不良感が強い。
時を同じくして違う場所に身分不詳の青年が現れる。
それぞれがその青年と信頼関係を築いていくが、少しの綻びから、隣のこの人は手配中の殺人犯かもしれないという疑心暗鬼に変わっていく。
サスペンスではあるが、推理小説ではなく、結末までの登場人物の心情の変化をなぞっていく感じ。
結局タイトルの「怒り」が内包する意味や背景は掴めない。
『パレード』を読んだ時に感じた、なんとなく不気味という感覚が著者の作品の持ち味なのかもしれないが。
..2016年9月に、森山未来、宮崎あおいなど、豪華キャストで映画化されている..果たして映画で化けているかどうか...
行間に漂う不気味さ..吉田修一『パレード』
なんなのだろう..この、読んでいるうちに胃の腑から静かな不気味さが滲み出してくる感覚は..
適当に交ざって、飽きたらいつでも去れるような、チャットのような表層的な空間で共同生活をする若者達。
心の内奥を晒すこともない、閉塞感漂う社会に適応した居心地の良い気怠い空間。
何も無い社会だからこそ、何も無い空間に希釈された空気として溶け交ざる。
しかしその中に、閉塞的な社会、世界からの解放を望んでいる異質な者が一人..
自己と他人、内と社会との隔絶。
ラストの展開は、彼らの無関心は、どこまで現代の病理を表出しているのだろうか。
この作品は2010年に、藤原竜也 · 貫地谷しほり · 林遣都 などのキャストで、行定勲監督が映画化している。
これがまた、原作の空気感がよく出されていて面白い。
決して多くはない、原作小説の映画化が成功したなぁと思える作品の内の一つ。
ピース又吉 『火花』
最近は相方の綾部祐二の方がニューヨーク進出の騒ぎでメディアに取り上げられているが..今更ながら又吉直樹の『火花』の感想..
己のセンスに付き従い、世間を度外視して奔放に生きる、天性の才能を持つ先輩と、その先輩を師と仰ぐ、世間を捨てきることのできない僕との、2人の芸人の揺らぐ距離感、心の機微を描いた小説。
ピース又吉は独特の雰囲気を持ちその芸風はシュールだが、正直、抉るような言葉のインパクトには欠けると思う。しかしその言葉たちには、口に入れて噛んだ瞬間にほわっと広がるような人情味のようなものがあり、それが登場人物達に魅力を与え、味わい深い物語となっている。
この小説、映像ストリーミング配信会社のNetflix(ネットフリックス)でドラマ化もされたみたいだが、出来はどうなのだろうか...