吉田修一 『怒り』

 パレードからの..

 

  吉田修一『怒り』

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 消化不良感が強い。

 時を同じくして違う場所に身分不詳の青年が現れる。

 それぞれがその青年と信頼関係を築いていくが、少しの綻びから、隣のこの人は手配中の殺人犯かもしれないという疑心暗鬼に変わっていく。

 サスペンスではあるが、推理小説ではなく、結末までの登場人物の心情の変化をなぞっていく感じ。

 結局タイトルの「怒り」が内包する意味や背景は掴めない。

 『パレード』を読んだ時に感じた、なんとなく不気味という感覚が著者の作品の持ち味なのかもしれないが。

 

..2016年9月に、森山未来宮崎あおいなど、豪華キャストで映画化されている..果たして映画で化けているかどうか...

行間に漂う不気味さ..吉田修一『パレード』

 なんなのだろう..この、読んでいるうちに胃の腑から静かな不気味さが滲み出してくる感覚は..

 

 『パレード』 吉田修一 幻冬舎文庫 2004 

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 適当に交ざって、飽きたらいつでも去れるような、チャットのような表層的な空間で共同生活をする若者達。

 心の内奥を晒すこともない、閉塞感漂う社会に適応した居心地の良い気怠い空間。

 何も無い社会だからこそ、何も無い空間に希釈された空気として溶け交ざる。

 しかしその中に、閉塞的な社会、世界からの解放を望んでいる異質な者が一人..

 自己と他人、内と社会との隔絶。

 ラストの展開は、彼らの無関心は、どこまで現代の病理を表出しているのだろうか。

 

 この作品は2010年に、藤原竜也 · 貫地谷しほり · 林遣都 などのキャストで、行定勲監督が映画化している。

 これがまた、原作の空気感がよく出されていて面白い。

 決して多くはない、原作小説の映画化が成功したなぁと思える作品の内の一つ。

 

 

西加奈子 『円卓』

 西加奈子作品を初めて読んでみようと思い、

   『円卓』 

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        文藝春秋 2011

を手に取った。

 

 言葉のリズムが良く、断片的な文章の欠片の一つ一つが符合して意味を為し、脳にストンと落ちてくる感覚が小気味良い。

 大人になり薄い皮膜越しには見えにくくなった透き通った景色と、未知に満ち満ちている世界から受ける圧倒的な孤独と不安。

 子どもの頃に感じていたそれら純粋な感覚を少しだけよみがえらせてくれる、そんな小説。

 

 映画化もされているみたいで、小憎らしくも純粋な主人公の女の子、ことこを演じる芦田愛菜ちゃんの

    「うるさいぼけ!」

も少し聞いてみたい気がする笑

ピース又吉 『火花』

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最近は相方の綾部祐二の方がニューヨーク進出の騒ぎでメディアに取り上げられているが..今更ながら又吉直樹の『火花』の感想..

 

 己のセンスに付き従い、世間を度外視して奔放に生きる、天性の才能を持つ先輩と、その先輩を師と仰ぐ、世間を捨てきることのできない僕との、2人の芸人の揺らぐ距離感、心の機微を描いた小説。

 ピース又吉は独特の雰囲気を持ちその芸風はシュールだが、正直、抉るような言葉のインパクトには欠けると思う。しかしその言葉たちには、口に入れて噛んだ瞬間にほわっと広がるような人情味のようなものがあり、それが登場人物達に魅力を与え、味わい深い物語となっている。

 

この小説、映像ストリーミング配信会社のNetflix(ネットフリックス)でドラマ化もされたみたいだが、出来はどうなのだろうか...

青春映画と言えばこれ、金城一紀原作 『GO』

人生の節目節目で見返したくなる映画がある。

 窪塚洋介主演 『GO』 だ。

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 窪塚のカリスマ性と、柴咲コウのミステリアスな妖艶さと、作品の軸として埋め込まれている マイノリティの反骨精神

 初見から10年以上が経ち、会社に飼い殺され

   去勢された犬

のような大人になった今でも..忘れたくない物語。

 

 

 

青春時代に心をえぐられた映画 『リリィ・シュシュのすべて』 を思い起こす

 大人となり、社会人としてある程度安定した今、あえて、不安定な青春時代に触れて心のひだにこびりついて記憶に残っている映画を、思い起こしてみた。

 まず、思いつくのはこれ

 

   リリィ・シュシュのすべて』

                [監督] 岩井俊二 [出演] 市原隼人蒼井優 他 2001年

 

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 こんなにも、空の色に透明感を表出した作品は他にない。ただの晴れ渡った青ではない、閉塞的で陰鬱な心象風景を表出した鈍色の青、大人になった俺にはもう見ることができない青。

 この作品は、10代の頃のどうしようもない渦を巻いている感情を、吐き出せずに内側で循環させ続け苦しむ彼らに、分かりやすい救いなどは与えず、正面から抒情的に描き出す。

 

 中盤の、ホームビデオで撮影したような沖縄の旅、決して短くはないそのシーンの意味を考えてみた。

    生と死の混在、自然の摂理、不条理さ

 星野(忍成修吾)がそれらに触れたことで自己を含めた社会の卑小さを認識し、自棄的な後半の行為へと駆り立てられた動機の表明だろうか。

 

 ドビュッシーの空を突き抜けるような幻想的な曲をバッグに表現されるこの物語は、大人になった今見ても、おそらくあの頃のように感情は揺さぶられない。

 だけど、押しつぶされそうな10代の頃に見たあの空の「青」は、時々心の隅から顔を出し、懐かしい寂寥感に浸らせてくれる。

  自分にとっては、そんな作品。

ブログ始めました! ・・とか言ってみる。

ぶろぐ

 この言葉から連想するものは、きらびやかな毎日を送る幸せな人達が、「朝食べたもの」「テレビで笑ったこと」「人に言われてちょっと傷ついたこと」などの微笑ましい日常を綴る

  せきららなぼくの日常日記

というやつだ・・・

    ・・

  ・・そんなまぶしいものはオレには書けない・・

・・だけど、内に押し込め続けてくすぶり続けている情念を吐き出したい!

ということで、書評をします。・・・・なんでだよ

 いや、書評というと偉そうなので、本とか映画とか音楽とか、日常で触れたものの感想を書いていきます。 

 

 人の記憶力とは心もとないものです。感銘を受けたものでもそのままにしておけば、やがて感動は薄れ、両手ですくい上げた砂粒のように、記憶の隙間から忘却の谷へと流れ出していきます。

 

 その中からきらりと光る一粒を見失わないように、大切にすくいあげるように、ボクは作品に対する思いの丈を綴るのです。

 

 気持ちの悪い心情吐露から始まりましたが、もうひとつ、

 

 「ブログ」という開けた媒体を利用し、不特定多数の目を意識したアウトプットをすることで、記憶の定着、更なる深いインプットをする

 

という目的があります。

 ですので、見る者がなくとも書き続けます。はい、泣きません。

 

 有限の時間の中で、どれくらいの作品と出会えるのだろうか。少しでも多くの良作と出会いたい、そんなことを思いながらあいむすりーぴんぐなう。

  どうぞよろしく