検察側の罪人 読書感想

 

 

 木村拓哉×二宮和也の対決を映像で見たくて、映画を見ようと思ったが、意外に評価が低かったのでとりあえず原作を..
 

 サスペンス的な展開で一気に読める、映画化されるのも分かるエンタメ作品。
 しかしあくまでエンタメ作品として秀でているのであって、思想的な深みなどを持たせる必要はない。
 無理にそこを前面にだしてしまうと、
  

 【どちらが善でどちらが悪か..いや正義なんてのはそもそも絶対的なものではなく、見る視点によって善にも悪にもなり得る、相対的なものだ】
 

という陳腐なポリフォニーに堕してしまう。

 

 ※以下ややネタバレ

 

 

 思想的には明らかに「奴」が間違えている。
 冒頭で奴みずからが言うように、検事とは法律という万能ではない剣を使う仕事。
 剣を使うというルールのゲームに参加しといて、その剣に刃こぼれがあったからと言って「銃」を取り出すのはあまりに幼稚だろう。
 

 私刑を排するための妥協点としての法律、それそのものに不満があるなら、執行者側ではなく、制定する側に回るしかない。
 

 法律の剣を振るうのは、子供たちの生きる社会の平和を保つためとはよく言ったもの。
 奴にも大切な家族がいるだろう。

 

 「なぜ人を殺してはいけないか」

 

 それは、小学校で習う道徳を持ち出すまでもなく、

 

 【自分、または自分の大切な人を殺されないために、人を殺してはいけないのだ。】

 

 そこにはそもそも、正義論は介在しない。

西野亮廣『革命のファンファーレ~現代のお金と広告』

 「キンコン 西野」の画像検索結果

 

 キングコング西野・・バラエティ番組「はねるのトびら」で世に出て、はねトび終了後はそんなにテレビで見ることもなくなり、その自由で怖いもの知らずな発言で方々に敵を作り、今では炎上芸人として世間に認知されているこの男。

 

 芸人として笑わせてもらったことはそんなにないが、32万部の大ベストセラーとなった絵本「えんとつ町のプペル」で、そのイカれた画力、もう芸人というか、芸術の方に進んだらいいじゃんという突き抜けたセンスを見せつけられ、多少の興味を持っていた。

 

 本屋でこの本

 

   『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』 幻冬舎

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が前面に売り出されているのを見かけ、その帯に

  クラウドファンディングで1億円を調達

との煽り文句を見て、革命を起こさんとするその勢いに惹かれて手に取った。

 

 結果・・西野亮廣のイメージは、

   梶原という多動な猿の手綱を握るだけの性格の悪い中途半端なイケメン 

 から↓↓ 

   その好奇心旺盛な情熱と冷静な計算で時代を牽引せんとするハイセンスなイノ

  ーター

に変わった。

 

 絵本『えんとつ町のプペル』がどうすればどのぐらい売れるかを構想し、それに合わせ現実的な販売戦略を打ち出す。

 販売戦略として取り入れた例と、生じる効果として

 

   〇 クラウドファンディングで絵本製作の資金をつのり、そのリターンとして

    サイン入りの絵本を送る

      → 発売前から、支援者数の分だけ既に売れることが確約される

   

   〇 あらかじめ出版社から1万部買い取っておき、ネット販売した

      → 前回出版の本『魔法のコンパス』が発売直後にアマゾンで売り切

       れ売上が実質以上伸びなかったことを受け、本の売上のゴールデンタ

       イムである最初の数か月で勝負をかけられることや、最初から増刷が

       約束されるという利点。(うろ覚え)

   

   〇 ネットで全ページ無料公開する

      → 作品の質が高いホンモノであれば、物として欲しくなり、売上が減

       るどころか逆に伸びる。

 

などが書かれている。

 ネットで無料公開するというのはすごい決断だ。『プペル』は分業制で多くのスタッフが作品に携わっているため、売上は彼らの給料となり、彼らの家族たちの生活に直結する。

 ぽしゃるわけにはいかない状況下で、また、吉本や出版社の上の者にはどうせ反対されるからと打診せずに内緒で、この決断に踏み切り結果成功したというのは純粋にすごい。

 

 他にも、

  絵本を正方形にした理由は、読者がスマホで写真を取り、インスタグラムに画像

 を載せ拡散しやすくして宣伝効果を出すため

など実にマーケティングに余念がない。

  (ちなみに本書の各章の見出しもインスタに載せやすい感じにして拡散されやす

  くしている。堀江貴文に了承を得てパクッた手法)

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 物の流通のしくみとして、生産者から消費者の手元に届くまでに問屋のような介在者が存在するため、その問屋に払うお金も必要になり、物を作って売るためには多大なコストがかかる。

 従って、出版社から本を出版しようと思い持ち込んでも、数千から一万冊売れる見込

みがなければ出版社もオーケーしない。

 しかし、今は誰しもが情報や作品を発信しクリエイターとなれる時代。そこで西野は、大衆に迎合しなくても、ニッチな読者を想定して個人出版できるサービス

    おとぎ出版

のサービスを開発している。

 これは、クラウドファンディングで個人作家が自作の購入者をつのり、100人集まった時点で出版決定。おとぎ出版が装丁し買い手に送ることで、無駄な仲介コストを生じさせないため、個人出版のハードルが下がるというもの。

 数万人にではなく、数百人に届く本があってもいい

という西野の善意が原動力。(あれ、こんないい人だったっけ?)

 

 

 西野は、

    ウォルト・ディズニーを超える!

と豪語している。

 まずはフリーメイソンにでも入り強大なバックをつけるところから始めなければ太刀打ちできないと思うが・・ただその心意気や良し!

 

 踏み出すためには「勇気」は必要ない、必要なのは「情報」だ

 子供のころ1人で電車に乗るのは怖いが、大人が平気で電車に乗るのは、乗る方法を情報として持っているからに過ぎない。

 情報収集を怠らず、時代の変革に取り残されるな、と言及している。

 

 そして、本書の最後でこう読者を煽る・・ 

僕はまもなくこの本を書き終える

そして直後に、次の行動を起こす

きみはまもなくこの本を読み終える

さあ、何をする?

キミの革命のファンファーレを鳴らすのは、キミしかいない

 と。

 

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

 

        

 

 

「うめざわしゅん作品集成」 感想

 社会に適応できない者、つまはじきにされる者、通常幸福といわれているものを享受する才能の無い者。

 かれらのことを表現するにおいて、この漫画のあとがきにおいて著書は、作家の福田恆存(つねあり)の文章を引き合いに出している。

一俵の米を脱穀するとね、必ず10粒ばかりは脱穀されない穀粒が出るんだよ。僕の読者はね、その極く少数の脱穀されない穀粒なんだ。 

 

 そう、この漫画に共感する俺たちは脱穀されない穀粒。

 どんなに「普通」というやつに恋焦がれても、到底到達できないものと知る。

 それを普通側の人間から、未熟さ、脆弱さ、逃避的思考、苦痛を避けるための自己規定、そう批判される向きもある。

 しかし、生存競争に適さない遺伝子を持ち、淘汰され緩慢に死んでいく個体にあって、

    悪あがきをしたくなるときがある 

 その魂の怨嗟が吐き出されたものがこの作品集。

 

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 パンティストッキングのような空(後篇)p64

 

 もはや、普通という奴に迎合して魂をすり減らすのにも飽きた。

 だから、この漫画を読んで、魂の孤独の隙間を埋めるとしよう。

 

パンティストッキングのような空の下

パンティストッキングのような空の下

 

 

 

清水富美加 『全部、言っちゃうね。』 感想 

 「幸福の科学」への出家でメディアを騒がせている清水富美加が、ここぞのタイミングで出した告白本(この団体儲かるぞ~)

 

 全部、言っちゃうね。 千眼美子 幸福の科学出版 2017.2.17

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 別に俺は清水富美加が特に好きなわけではない。演者として出ている映画もドラマも見たことが無いし、騒動になる前は顔と名前がかろうじて一致するくらいであった。

 ではなぜ、告白本というその人間の本質に深く迫るような媒体を手に取ろうと思ったか、それはそう、

   俺がどうしようもなくミーハーだからである

 人気急上昇中の22歳というこれからの女優が、今まで積み重ねてきた全てを投げ捨て、丸坊主にして瀬戸内寂聴化せんとする(俺の勝手な出家のイメージ)というセンセーショナルな話題にメディアが食いつかないはずがない。

 ということで、二本釣りのごとく私も釣られたわけです。

 

 そもそも「幸福の科学」とはなんだろう?俺の生活圏内にたまたま、立派な佇まいの支部がある。愛を謳うだけではお金は生まれない。なにかいかがわしいことでもやっていい思いをしているんだろう、と、その程度の関心した持たなかった。

 

 困ったときのWikipedia。その情報によると、なんと、

   世界100カ国以上に支部を持ち、会員数1200万人以上の巨大宗教組織で

  あった!

 地球神「エル・カンターレ」が地上に具現化したのが大川隆法総裁であり、キリストや孔子など、多数の神が融合して遍在しているという独特な解釈の多神教を教義とした、全人類救済を目的とする宗教である!

 

 なんと偉大な宗教であろうか、よし、みんな、入信しよう!

・・・ 

 ・・

 では本の内容にうつる。

 13歳でスカウトされて芸能活動を始め、15歳の頃からグラビアの仕事が入り始

める。水着の仕事は抵抗があったらしい

 こんなこと言ってもいいのか分からないですけど、水着の仕事って言ったって、おかずですよね。(中略)

 いざ、握手会とか人前に行ったら、手がぬるぬるしているおじさんとかに、すっごい気持ちの悪い握手のされ方をする。

 「この見知らぬおじさんが私の写真やDVDを観て家で何してるんだろう」とか考えてたらもう、ほんとに悲しくなって。(p40-41)

 きっと繊細すぎたんだろう。

 今ではジュニアアイドルと称し、小学生女児がその早熟すぎる豊満なバストを屈託のない笑顔と共に振りまいてカメラに押し付けているものも普通に存在する。

 そんなご時世、15歳でグラビアは珍しくもないが、そもそもこの子には、男のいやらしい視線を集めてうれしいという子悪魔的な性格が欠けていたのだろう。

 

 そしてこの人は、本当に頑張り屋さんである。

   役作りのために、飛んでいるハエを捕まえて食べてみたり(いや、どんな役だ

  よ!)

   苦手なグロ映像を毎晩金縛りにあいながらも見続けたり..

・・・

 ..やつれた役を演じるために奥歯を抜いた故松田優作ばりのストイックさである

 

 ニュースでも言われていた、給料が不当に低すぎる件に関して。

 確かに、仮面ライダーのヒロインをやっていたころ、朝4時入りで夜遅くまで撮影、1ヶ月休みなしで月給5万円というのはさすがに低すぎるような。

 元々は歩合制だったが、事務所からの圧力により半強制的に給料制にされて、撮影終わりには交通費も支給されず、ヒッチハイクをしながら帰ったとか(..危ない!)

 

 そもそもの入信のきっかけについて。

 両親が「幸福の科学」の会員であり、子供の頃から入信していて身近な存在であった。

 辛くなると近所の支部に出かけて行って相談をし、今までに何回も精神的に助けられていたという。

 その精神的土壌があって、今回の出家に至る。

 きっかけは何なのか、それは、一つの出来事がトリガーとなったわけではなく、芸能活動から来る慢性的な苦悩が限界線を振り切ったということ。

 「いや、これから先、人間として生きてる人たちに霊的に見て悪い影響を与えたり、悪魔的なものの力に加担してしまうような作品に出てしまう可能性があるなら、それは私にはこれ以上できないです」っていう話をしたら、マネージャーさんはすごく困って、もう意味わかんないって感じでした。 (p76-77)

 出演作品が、「HK変態仮面アブノーマルクライシス」とか(なにそれ見たい!)、「リアル鬼ごっこ」とか、エログロ系の役が多かったのだろう。

 確かに、佐藤姓の人間たちが殺し合ったり、人を啓蒙できる作品ではないw

 今年の4月1日公開の「暗黒女子」が最後の公開作品になるのか..

 我々はしかし、「千眼美子(せんげんよしこ)」という別な名前で彼女の活躍を見れるかもしれない。

 というのも、「幸福の科学」は自主制作映画をその宣伝媒体として多く活用している。

 団体は今回、これ以上ない主演女優を獲得できたのではないだろうか。

 本人も、映画出演などによる広報、布教活動に励みたいと宣言している。

 

 最後に「千眼美子」という法名について。

 今回いただいた千眼美子という法名については、「千手千眼観音」に由来すると言われても、「手は二つやし!」って感じで、まだちょっと自覚がなくてわからないんです。(p139)

 仏をもおそれないツッコミ、いただきやした。

 ユーチューブで動画を見たが、彼女がバラエティで見せるユーモアな一面は、なにか惹きつけられるものがある。

 

ーーー

 出家について、今でなくてもいいじゃない、せめて契約中の仕事を消化してからでも..という声も聞かれるが、本人は、これ以上少しでも続けたら死ぬという心身的にスレスレの状態であったという。

 自分の命を守る。そのために、強い葛藤を振り捨て出家した彼女を誰も責めることはできないはず。

 心を削り取られながらも、這いつくばって生きなければならない芸能界という現世の地獄で苦しむ人たちに、今いる環境を抜け出す新たな視点、もう少しの勇気というものを与えられる、彼女の出家はそれだけでも意義があったのかもしれない...

  

               

漫画 『服を着るならこんなふうに』 はファッション弱者の味方です

 服を買いに行くための服が無い!

 ショップで店員さんに話しかけられるとキョドッてしまって、そそくさと店を立ち去ってしまう..

 

 そんな、自意識過剰な現代人には決して少なくはないであろう

   ファッション弱者

に優しく歩み寄ってくれる漫画がこちら

 

 

『服を着るならこんなふうに』 漫画 縞野やえ 企画協力 MB 角川書店 2015

        

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 現在4巻まで出ているが、とりあえず2巻まで読んだ感想。

 

 自分がファッションに関して、

   センスが無い!

 そう思って、おしゃれを敬遠している人はいないだろうか?

 ファッションも、周りから見て

   「あの人の着こなしかっこいいねー」

という感覚がある以上、格好よく見える基準というものが存在する。

 それすなわち、ファッションには客観的な理論が存在するということ。

 その理屈を学べばファッションセンスあるなしに関係なく、ユニクロなど敷居が低い良質な店の商品だけでも、ある程度格好よく見せることができる、というのが、この漫画に通底するファッションの価値観。

       

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 「KnowerMag」とうファッションブログをやっている、メンズファッションバイヤーの「MB」が企画協力して作られている本作。

 ファッションの理屈から、ユニクロや無印などのファストファッションのおすすめ商品なども紹介されており、勉強になる。

 

 例えば、理論でいうと

   〇 ファッションはドレスとカジュアルのバランスが大切

   〇 胴長短足の日本人体系には、下半身を同系色で統一することで、足を長く

    見せる視覚効果が出せる

   〇 スヌードなど顔の周りにアイテムを置くことで小顔の視覚効果が得られる

などであり、

 具体的な商品でいうと

   〇 ユニクロの「スキニーフィットテーパードジーンズ」

      DIro Homme(ディオール・オム)のハイブランド商品を模倣した、簡

     単なコーディネイトで大人っぽさを演出できる合わせやすい商品

   〇 無印良品「洗いざらしブロードシャツ」

      身体にはゆとりがあるが袖が細い作りになっており、デザイナーにも愛

     用されている商品

などなど。

 

 文章だけでは分からないが、漫画で表現されているので一目で伝わるのが良い。

 

 また、しっかりもののJDの妹ちゃんが、ニットなどの傷みやすいものは日陰で平干しだよ、など、基本的な洗濯の注意点などを教えてくれるのも優しい作り。

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 人と会うとき服装を考えるのがおっくうだ

 服を買いに行くのもおっくうだ

 外に出るのがおっくうだ

 よし、ひきこもろう

 

 という、自意識に囚われてがんじがらめになってしまっているファッション弱者に

 服を選んで着ることを楽しむ

とう素晴らしい感覚を今一度味わせてくれる、そんなきっかけとなるであろう素敵な作品。

 

  

『グローバライズ』 木下 古栗 騙された..読書感想 

 アメトーク「読書芸人」でも紹介され、話題を呼んだ

 

『グローバライズ』 木下 古栗(きのした ふるくり) 河出書房新社 2016

   

・・・

 まず最初に一言、俺はこの小説が好きだ。

 しかしこれは、ゴールデンタイムのバラエティ番組で芸能人によりおすすめされるべき本ではない笑

 確か番組では、「全部読んだ後に衝撃が走る。記憶を消してもう一度読みたい」

というようなことを光浦靖子が言っていたが、とても危ない発言笑

 

 20代前半の知人女性(普段は読書しない、道を子犬が歩いていれば、きゃわい~と言って触りに行くような、ごく普通の女の子)が、少しは読書をしなければと思っていた時にこの番組を見て、俺に

 「私、ドン伝返しとか、物語の最後で衝撃を受けるみたいな話が好きなの。グローバライズ読んでみようかなぁ」とのたまっていた。

 きっと『イニシエーション・ラブ』的なものを想定していたのだろう..

 俺は木下古栗という作家を知らなかったし、ドン伝返しは好きなので、本屋でこの本を見かけて「そうだ、読んであの子に貸してあげよう」と思って購入に至った..

  ・・・

  ・・

 うん、貸せるはずがなかろうも。

 

 もし俺が読まずにあの子の気を引くために嘘をついて

 「あ~あの本ねー、読んだけど面白かったよー、○○ちゃんにも合うと思う。今度

 貸してあげるね~」

なんて言っていらと思うと、背筋を鋭利な刃物で肩甲骨にそって皮を削ぎ落とされるような、冷たく鋭い痛みが走る。

 

 俺がたまたま、「自分がちゃんと読んだ後じゃないと人には勧められない」という慎重かつ親切、責任感ある真摯な紳士であったから良かったようなものの、テレビ番組で紹介されていたからと安心して知人、恋人に勧めてしまう暗愚な人間もいるだろう。

 それはちょっとした事件である。

 紹介したその人の歪んだ性癖を邪推され、「なんでこの本を私に勧めてきたの」という疑心暗鬼を生み、次顔を合わせた時には雨に濡れそぼった路肩の犬のクソでも見るような淀んだ目で見られること必至である。かわいそうに

 

  ・・・

  ・・

 それはさておき、内容について

 この小説は短編集であるが、番組を見て知人が思っていたような「それぞれの話がリンクしていて、読了した後に全てが繋がり衝撃を受ける」というようなものでは、断じてない。

 確かに話によって若干リンクさせている部分もあるが、物語の本筋での関連性は無く、独立した短編集と捉えていい(一読しただけでは分からない緻密なトリックが仕掛けられており、俺が気づかないだけという可能性もあるかも、そん時は教えて)。

 各物語に共通する特徴は「サイコパシーなエログロ」という感じ。

 読んでいるうちに、だんだん登場人物の言動が不穏な方向に傾きだし(主に性の方向)、やがて変態性が発露、最後まで突き抜けていき最後の数行で読者を突き放す、という感じ。

 その、引き込まれた後での突き離しが際立っていて、特に印象深いのは

    「反戦の日」と「道」

 最後の言葉の猛勢がやばく、一文一文に惹きつけられ、アドレナリンが噴出していく快感が得られた。

 最後の一行を読んだ後はまさしく、オーガズム後の虚脱感。

 愛あるセックスの後のような昂揚感と充足感の得られる読書体験ができた。

 

 だけどやっぱり、あの娘におすすめしなくて良かったなぁと、改めてそう思いました。。

 

 

 

『THE WORLD IS MINE』 3巻

 折り返しの3巻目

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 完全にヒグマドンのターン!

 

    いよいよ街中に降臨し、ひたすらに暴れまくる

      ヒグマドン

    そんな中、慈愛心に溢れる女性マリアちゃんと接触することで変化し

   ていくモンちゃんと、嫉妬に駆られて更に残虐行為を犯すトシ

    政府もいよいよ自衛隊、消防、警察に災害派遣要請を出すが、自衛隊法によ

   る出動制限をパスするためにはヒグマドンを天災・災害と捉えなければならな

   い。     

日本は世界で初めて天より降ってわいた天災という名の怪獣を 

具現化された神を認める国になるだろう     (p380)

 そしてその時、

    「天より振りたる大きな力が災いをもたらす」

 というメッセージを残していたトシモンは預言者となる。

 

 ・・・

 この巻で一番面白かったのは、総理大臣 由利勘平が、災害派遣要請を出すシーン。

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                        (TWIM3巻 p377より)

 

  国家の危機管理体制は、各関係機関の利害や保守性によりその迅速性は阻害され

 る。

  情報の伝達を、「憲法自衛隊法にのっとった伝言ゲーム」と揶揄し、

  「正規の所要時間と今回の対応との時差並びに防ぎ得た被害を含めてマスコミに

 公表していただきたい。」といってのける。

 

 形骸的なシステムを嫌い、正義を貫く男の背中(毛深い)が垣間見える一コマ

 

 

 マリアちゃんが物語の中枢に入り込んできているが、モンちゃんに今後どう作用し

ていくのか予想がつかない。

 著者が巻頭インタビューで、

   「モンチャンは、ヒグマドンと邂逅することで人間性を獲得するが、マリアの

   影響で再び動物的残虐的存在に戻っていく」

と言っているが、この神話的物語の中で、マリアの持つどのような抽象的属性が、モンちゃんという神的な存在にどのような観念を元に作用していくのかが、つまりは、著者が登場人物に与えている物語的な役割が掴めない。

 だれか教えてください。

 読み進めていくことでいずれ分かるだろうか。。