青春時代に心をえぐられた映画 『リリィ・シュシュのすべて』 を思い起こす
大人となり、社会人としてある程度安定した今、あえて、不安定な青春時代に触れて心のひだにこびりついて記憶に残っている映画を、思い起こしてみた。
まず、思いつくのはこれ
『リリィ・シュシュのすべて』
[監督] 岩井俊二 [出演] 市原隼人、蒼井優 他 2001年
こんなにも、空の色に透明感を表出した作品は他にない。ただの晴れ渡った青ではない、閉塞的で陰鬱な心象風景を表出した鈍色の青、大人になった俺にはもう見ることができない青。
この作品は、10代の頃のどうしようもない渦を巻いている感情を、吐き出せずに内側で循環させ続け苦しむ彼らに、分かりやすい救いなどは与えず、正面から抒情的に描き出す。
中盤の、ホームビデオで撮影したような沖縄の旅、決して短くはないそのシーンの意味を考えてみた。
生と死の混在、自然の摂理、不条理さ
星野(忍成修吾)がそれらに触れたことで自己を含めた社会の卑小さを認識し、自棄的な後半の行為へと駆り立てられた動機の表明だろうか。
ドビュッシーの空を突き抜けるような幻想的な曲をバッグに表現されるこの物語は、大人になった今見ても、おそらくあの頃のように感情は揺さぶられない。
だけど、押しつぶされそうな10代の頃に見たあの空の「青」は、時々心の隅から顔を出し、懐かしい寂寥感に浸らせてくれる。
自分にとっては、そんな作品。