「うめざわしゅん作品集成」 感想

 社会に適応できない者、つまはじきにされる者、通常幸福といわれているものを享受する才能の無い者。

 かれらのことを表現するにおいて、この漫画のあとがきにおいて著書は、作家の福田恆存(つねあり)の文章を引き合いに出している。

一俵の米を脱穀するとね、必ず10粒ばかりは脱穀されない穀粒が出るんだよ。僕の読者はね、その極く少数の脱穀されない穀粒なんだ。 

 

 そう、この漫画に共感する俺たちは脱穀されない穀粒。

 どんなに「普通」というやつに恋焦がれても、到底到達できないものと知る。

 それを普通側の人間から、未熟さ、脆弱さ、逃避的思考、苦痛を避けるための自己規定、そう批判される向きもある。

 しかし、生存競争に適さない遺伝子を持ち、淘汰され緩慢に死んでいく個体にあって、

    悪あがきをしたくなるときがある 

 その魂の怨嗟が吐き出されたものがこの作品集。

 

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 パンティストッキングのような空(後篇)p64

 

 もはや、普通という奴に迎合して魂をすり減らすのにも飽きた。

 だから、この漫画を読んで、魂の孤独の隙間を埋めるとしよう。

 

パンティストッキングのような空の下

パンティストッキングのような空の下

 

 

 

漫画 『服を着るならこんなふうに』 はファッション弱者の味方です

 服を買いに行くための服が無い!

 ショップで店員さんに話しかけられるとキョドッてしまって、そそくさと店を立ち去ってしまう..

 

 そんな、自意識過剰な現代人には決して少なくはないであろう

   ファッション弱者

に優しく歩み寄ってくれる漫画がこちら

 

 

『服を着るならこんなふうに』 漫画 縞野やえ 企画協力 MB 角川書店 2015

        

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 現在4巻まで出ているが、とりあえず2巻まで読んだ感想。

 

 自分がファッションに関して、

   センスが無い!

 そう思って、おしゃれを敬遠している人はいないだろうか?

 ファッションも、周りから見て

   「あの人の着こなしかっこいいねー」

という感覚がある以上、格好よく見える基準というものが存在する。

 それすなわち、ファッションには客観的な理論が存在するということ。

 その理屈を学べばファッションセンスあるなしに関係なく、ユニクロなど敷居が低い良質な店の商品だけでも、ある程度格好よく見せることができる、というのが、この漫画に通底するファッションの価値観。

       

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 「KnowerMag」とうファッションブログをやっている、メンズファッションバイヤーの「MB」が企画協力して作られている本作。

 ファッションの理屈から、ユニクロや無印などのファストファッションのおすすめ商品なども紹介されており、勉強になる。

 

 例えば、理論でいうと

   〇 ファッションはドレスとカジュアルのバランスが大切

   〇 胴長短足の日本人体系には、下半身を同系色で統一することで、足を長く

    見せる視覚効果が出せる

   〇 スヌードなど顔の周りにアイテムを置くことで小顔の視覚効果が得られる

などであり、

 具体的な商品でいうと

   〇 ユニクロの「スキニーフィットテーパードジーンズ」

      DIro Homme(ディオール・オム)のハイブランド商品を模倣した、簡

     単なコーディネイトで大人っぽさを演出できる合わせやすい商品

   〇 無印良品「洗いざらしブロードシャツ」

      身体にはゆとりがあるが袖が細い作りになっており、デザイナーにも愛

     用されている商品

などなど。

 

 文章だけでは分からないが、漫画で表現されているので一目で伝わるのが良い。

 

 また、しっかりもののJDの妹ちゃんが、ニットなどの傷みやすいものは日陰で平干しだよ、など、基本的な洗濯の注意点などを教えてくれるのも優しい作り。

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 人と会うとき服装を考えるのがおっくうだ

 服を買いに行くのもおっくうだ

 外に出るのがおっくうだ

 よし、ひきこもろう

 

 という、自意識に囚われてがんじがらめになってしまっているファッション弱者に

 服を選んで着ることを楽しむ

とう素晴らしい感覚を今一度味わせてくれる、そんなきっかけとなるであろう素敵な作品。

 

  

『THE WORLD IS MINE』 3巻

 折り返しの3巻目

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 完全にヒグマドンのターン!

 

    いよいよ街中に降臨し、ひたすらに暴れまくる

      ヒグマドン

    そんな中、慈愛心に溢れる女性マリアちゃんと接触することで変化し

   ていくモンちゃんと、嫉妬に駆られて更に残虐行為を犯すトシ

    政府もいよいよ自衛隊、消防、警察に災害派遣要請を出すが、自衛隊法によ

   る出動制限をパスするためにはヒグマドンを天災・災害と捉えなければならな

   い。     

日本は世界で初めて天より降ってわいた天災という名の怪獣を 

具現化された神を認める国になるだろう     (p380)

 そしてその時、

    「天より振りたる大きな力が災いをもたらす」

 というメッセージを残していたトシモンは預言者となる。

 

 ・・・

 この巻で一番面白かったのは、総理大臣 由利勘平が、災害派遣要請を出すシーン。

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                        (TWIM3巻 p377より)

 

  国家の危機管理体制は、各関係機関の利害や保守性によりその迅速性は阻害され

 る。

  情報の伝達を、「憲法自衛隊法にのっとった伝言ゲーム」と揶揄し、

  「正規の所要時間と今回の対応との時差並びに防ぎ得た被害を含めてマスコミに

 公表していただきたい。」といってのける。

 

 形骸的なシステムを嫌い、正義を貫く男の背中(毛深い)が垣間見える一コマ

 

 

 マリアちゃんが物語の中枢に入り込んできているが、モンちゃんに今後どう作用し

ていくのか予想がつかない。

 著者が巻頭インタビューで、

   「モンチャンは、ヒグマドンと邂逅することで人間性を獲得するが、マリアの

   影響で再び動物的残虐的存在に戻っていく」

と言っているが、この神話的物語の中で、マリアの持つどのような抽象的属性が、モンちゃんという神的な存在にどのような観念を元に作用していくのかが、つまりは、著者が登場人物に与えている物語的な役割が掴めない。

 だれか教えてください。

 読み進めていくことでいずれ分かるだろうか。。

 

 

 

『THE WORLD IS MINE』 2巻

 2巻目に突入

  

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 表紙の女は、1巻で登場し、2巻目ではトシモンに加わろうとする女性、マリアちゃん。

 

 帯のコメントの一人は小説家 阿部和重

 これは、壮絶なまでに徹底した描写の追求によって「世界」の連続性を

描き出す、きわめて倫理的な作品である。

 

 ――テロ事件の犯人として身柄を捕らわれている爆破犯「トシ」を救出するため、

  警察署に対する大規模テロを敢行した超人「モン」。

   多くの警察官を殺しながらの救出劇は成功を遂げ、トシモン2人の逃避行から

  再開する、『TWIM』第2巻。

   寒さと疲労から意識を手放そうとするトシを背負い、青森県山中を進むモンで

  あったが、とうとう、神が生み出した悪魔の片割れ、体調12メートルの怪物

     ヒグマドン

  と邂逅する。

   圧倒的な存在を前に、トシはそれまで知らなかった「畏敬の念」を喚起され、

  自分を超越した暴力に初めて対峙したことで「痛み」を知り、それ以降人を殺す

  ことが出来なくなる。

   それまで依存してきた絶対的な存在が、良心や想像力という俗な観念に影響さ

  れ始めていることに不安と憤りを感じるトシであったが、既に引き返すことはで

  きない。

   自分を肯定するために、ネットに「殺人代行」のホームページを立ち上げ、世

  の中の悪意を浮き彫りにし、良心不在の社会を再確認する。

 

    ―ここで、爆破犯トシの母親に視点が変わり、極普通の主婦が息子の犯行を

     知り、世間に非難され、発狂し、自殺に至るまでのエピソードが挿入され

     る。

    ・・・この話が、またエグイ笑。

   「うちの子にかぎって」という信頼が、犯人顔写真のニュース報道により疑念

  に変わり、警察署に出頭させられ、証拠を提示されることで息子が大量殺人犯だ

  という事実を突き付けられる。

   事実を受け入れられずに、やがて発狂に至るまでの描写が、読んでいてただた

  だ苦しい。

   だがこのエピソードが、犯人側の家族を自殺に追いやる世間やメディアを描く

  ことで、一方だけの視点ではない、両方の立場に立つ想像力を掻き立てるという

  作用を生じさせることに成功している。

 

  話は戻り、世間では「殺人代行」のホームページに大量の殺人依頼が殺到したこ

 とが社会的問題となり、緊急番組が開かれる。

  そこに、1巻で登場したユニークなオッサン総理、由利勘平が再び登場し、テロ

 リズムに扇動される視聴者に対し

    想像力の欠如

 を問題提起する。

  話の内容こそ「想像力を持て」という普遍的なものだが、

   中指をカメラに向かって突き立て、死体の入った棺桶を蹴り上げる

 というクレイジーな方法が視聴者の関心を掻き立てる。

   想像力のない馬鹿どもは死刑だ

 というメッセージを受け取ったトシの

   神のみぞ知る、試そやないか

 のつぶやきで幕を閉じる第2巻。

 

  物語の展開は怒涛の1巻に比べて失速するが、個性的な登場人物も多く、相変わ

 らずの面白さ。

   仲間に加わろうとする女性マリアの存在もあり、今後どう物語が進展していくの

 か、わくわくである。

 

 

本物だなぁと思った漫画 『THE WORLD IS MINE』 新井英樹

 漫画にもいろんなジャンルがあるが、

   社会とか人間の本質を描いた、魂に響く漫画

というものがある。

 

 俺の中ではこれ、

   『THE WORLD IS MINE』 新井英樹 

                       エンターブレイン 2006 

 辞典ほどの分厚さで、全5巻という大ボリューム

 何年も前に一度読んで衝撃を受け、記憶が薄れてしまったので再読してみた。

 

 まず1巻

  

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 この漫画、各界の著名人も絶賛しており、各巻の帯にはコメントが付されている。

 1巻の帯の内容

  

  伊坂幸太郎

   「残酷さに震えてしまう。90年代に生まれた、素晴らしい文学の一つだと思

    います。」

  【くるり岸田繁

   「ワールド・イズ・マインを知らない子供達へ。世界の残酷さの裏側を覗いて

    みろ。「世界」という文字が透けてみえるような、素敵な場所がある。

 ...岸田繁のコメントがすてき...

 

 1巻を読み終え、1巻でここまでストーリーが進んだっけというくらい、怒涛の展開。

 以下、ごく簡単なあらすじ。

 ー世界に愛された、法やモラルを超越している超自然人の主人公「モンちゃん」

 ネットで他者と繋がろうとし、爆弾の作り方を検索しちゃうような、今の時代にはどこにでもいそうな、だけど、ちょっとヤバめなオタクの「トシ」

 この2人が出会うことで、表層的な平和を生きる社会に「テロリズム」がもたらされる。

 さらに、隕石の落下の影響で北海道の南端に「ヒグマドン」なるヒグマの怪獣が現れ、ゴジラさながら海を渡って本州に上陸し、ひたすら暴れまわる

 この、モンちゃんとヒグマドンという最凶の「天災」と、爆弾魔となる「トシ」を生み出した社会の「人災」が、最悪な科学反応を起こし、平和な日常というやつをぶち壊していくー

 

   突き詰めるようなリアルとカオスな破壊劇の混在

 この物語はテロ実行犯の2人の視点を中心に語られるが、著者の取材による情報量が豊富で、警察組織、政治家、テロに巻き込まれるそれぞれの人間達が、それぞれの正義をもとに動く状況が

 多面的に、本質を突くように、それでいて冷静な視点に立って

描かれる。

 それがこの漫画をただの娯楽作品ではない、読者に思考を喚起させる「文学」に押し上げている。

 序盤から早くも

    殺して、犯して、爆破して、と無差別な犯罪が繰り広げられる

漫画だが、著者が巻頭インタビューでこの作品を「道徳の教科書」のつもりで描いたと言うように

    社会の作り出した悪を徹底的に描くことで、人間の本質を浮き彫りにする

反面教材的な側面が強い

    深いテーマ性を帯びた娯楽作品

となっているように感じる。

 

 トシの、「命の値段」とか「世界平和」とかいう青臭い問題提起に対し

   「命にはハナから価値は無く、世界平和というユートピアなど存在し得ない」

とザクリと記者会見で言っちゃうような、ユニークな総理大臣「由利勘平」など、この漫画はキャラが立っていて、飽きることがない。

 

 これから物語がどう進んでいくか、薄れた記憶を辿りながら、ゆっくり咀嚼して読んでいこう。